NO! NO! NO!
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9/11をだいぶ過ぎてしまったが、テロと戦争のことについて書
こうと思う。
すこし賢いひとは、あまりテロや戦争を語ろうとしない。「人が
死ぬから戦争は良くない」なんて、あまりにも当たり前すぎること
しか書けないからだ。善し悪しでない部分のことを書くには知識が
要る。ちょっとしたことを思いついても、たいていは「人が死んで
いるのに不謹慎だ」ということで、書けない。テレビの芸人がきわ
どい時事ネタをやれないのと同じである。きわどい笑いについて来
れる視聴者もいないのだろう。たかだか文章、ネットにも雑誌にも
悪意に満ちたものが山ほどあるにもかかわらず、こんなときだけ誰
も、なにも、言わない。普段は人のことを不快にさせる文章に鈍感
なくせに、こんなときだけ。
2年前の9月11日、私は麻布に住んでいた。一緒に暮らしてい
たひとに呼ばれ、テレビを見た。誰もがそうしたように、何が起き
たのか、これからどうなるのか、じっとテレビを見続けた。戦争宣
言。あまりにアメリカっぽいアオリの演説。勧善懲悪の構図の善の
部分に自国をあてはめる、もう、なんというか下品で下世話でしょ
うがないやり口だったんだけれども、こんなしょうもない一言でも
アメリカが言ってしまえば戦争は始まるのだな、と思った。
私は国際情勢にうとい。日本は巻き込まれると思った。とばっち
りを受けるに違いないと思った。アメリカ同様、テロの対象になる
と思ったのである。なにしろ東京には都庁というツインタワーがあ
る。今でこそ馬鹿馬鹿しい考えだと言えるかもしれないが、その当
時はどんなことが起こってもおかしくないと思えた。
「あした死ぬかもしれない」と思うと、昂揚した気分になった。
あした死ぬかもと思うと、途端に全てが色褪せた。あした死ぬかも
しれない時に聞きたい音楽も、読みたい本も、なにもなかった。な
にもないくせに、ずっと求めていた生きている疾走感がもの凄い勢
いで押し寄せてきて、刹那的な幸福感でいっぱいになった。
日本で生まれて日本に住んで、日本という国の政治や立ち位置な
ど考えず選挙にも一度も行かず、なにも勉強せず、日本国民である
という事実も無視して、なんにも関係ない顔をして好き勝手にやっ
てきても、結局巻き込まれる時は巻き込まれるのだ。馬鹿馬鹿しい
ことだ。私が戦争なんかやりたくなくて、アメリカが嫌いでも関係
ない。
そして、結局何が正しいか、何が間違っているか、何がより人道
的で、何がよりよい解決策なのか、そういうこととは関係なしに戦
争が始まった。
戦争が本当に始まって、感じたのは、結局力のある者が強くて勝
者だということだ。話し合い、という言葉に意味などない。いまま
でいちおうあった建前もかなぐり捨てて、暴力権力経済力、結局そ
れだけで決まるのだということが露呈した、ような気分になった。
正攻法なんてもはやなくて、あるのは力で成り上がる方法だけの
ように思えた。テロでさえやったもん勝ちというか、そういう感じ
がした。凶悪犯罪が増えたのも、当然のように思った。金も権力も
ない人間が、自分の欲望を叶えようとする時に暴力を使う。人と対
峙した時に暴力は強い。問答無用の暴力には、誰も逆らえない。な
にもなくても、ただ力だけで、なにかがやれてしまう。暴力がいけ
ないとかおかしいとか、そんな常識も無効である。いけなかろうが
おかしかろうが、やったもん勝ち。捕まらなければ本当に、勝ちで
ある。
テロが起きて、戦争の予兆があって、ぼんやりと望んでいた「安
定」がもはやあり得ないもののように思えた時、かるい解放感があ
った。どうせ安定などしないのなら、好き勝手に、やろう。そう思
えた。勤めていた会社を辞めることを決めたのもこの時である。フ
リーでどうやって仕事をもらうのかということすら知らず、よって
1本も仕事のあてがなかったが、全然怖くなかった。食いつめたら
水商売でもなんでも、やればいい。今死んだらどうしよう、という
焦りのほうが怖かった。今死にたくない。書きたい。書きたい。な
にかを。もう死んでもいいという一瞬が欲しい。
あしたは打ち合わせと免許の更新、あさっては原稿書き、今週は
仕事で休みがあまりない。少し風邪をひいて体調がわるい。ものも
らいができた。来週は誕生日。一番好きな歌手のライブを見て、聴
いて、そのあとで白いテーブルクロスのかかった店で、シャンパン
を。こんな日常の中に、暴力よりしたたかで強い、なにかがあると
思いたい。人死にでしか生きている疾走感を味わえないなんて、あ
まりにも。テロが起きるより、戦争が起きるより先に、こういうこ
とをやればよかった。戦争を待たずに、告白を、転機を、セックス
を、美食を、音楽を、いますぐに、嫌いなものを全部捨てて、好き
なものだけで、生活を。暴力も金も権力も及ばない、没頭と陶酔と
疾走感を。36.2℃、平熱。あしたは何を食べようか。誕生日には何
をしようか。考えながら、今日は眠ろう。
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「an-an」に載った効果で、いままでつながりのなかった人から仕
事のメールをいくつかいただいた。
正直嬉しい。知らない人から仕事を頼まれるというのも嬉しいし、
なによりフリーのライターにとって、仕事がもらえるというのはあ
りがたいことだ。
友達から電話が来て「大物になりましたね」と言われた。
来た仕事は女性のセックスアンケートに対するコメントの仕事と、
セックスグッズなどの情報ページの取材の仕事だった。これまでど
うやったら書けるのかわからず、おそらく売り込みに行っても書け
ないだろうと思われる雑誌からの仕事だった。要するに、一般誌と
呼ばれる雑誌である。エロ本ではない普通の、雑誌だ。
初めて一般誌でエロ関係のことを書く機会があった時、私は喜んだ。
エロ本を読まない人にもエロのことを伝える機会ができたと思った
のだ。しかし実状は違った。一般誌でのエロネタの扱いというのは、
ふざけて笑いにするか、薄めて出すか、それしかないのである。
では、エロ本なら薄めず笑わず出せるのか、というと、そんなこと
もない。真面目にセックスを論じているエロ本なんて興醒めである。
ほとんどのエロ本にとって、当然だがメインは写真である。文章は
二の次三の次であることも多い。
「an-an」に載って、みんなにおめでとうと言われる。私はあれに
文章を一文字も書いていない。コメントしただけである。
私はエロ本で顔出しをしていない。それは単純にエロ系のもので女
が顔出しをすることが怖いと思っているからであるが、本当はエロ
であろうとなかろうと、顔を出すのは嫌いだ。だが、「an-an」で
は出している。一般誌には媚びるくせにエロじゃ出さないのかよ、
と言いたければ言えばいい。これぐらいの売名行為は私だってやる。
それにエロ本で女が顔出すことの意味と、女性誌で顔出すことの意
味は全然違う。自分をズリネタとして売る意志があるのなら、顔出
すとか出さない以前に、とっくに脱いでいる。
顔出して、名前売って、仕事来て、いいことばかりか。良かったね
え、大物になって。このままセックスコメンテーターの椅子に座れ
ばいいのか。一般誌で誰も語りたがらないエロネタを喋れる女とし
てまた一文字も自分で書かない仕事をいっぱいやればいいのか。が
んばっていいこと言えばテレビとかにも出られるのかな。そんで本
も出させてもらえるのかな。そこで何を書けるんだろう。女性によ
る女性のためのセックス本だろうか。実体験も織りまぜたりなんか
しちゃったりして。おしゃれヌードも披露しちゃったりして。ばっ
かじゃねえの。
エロ本より一般誌で仕事した方が知名度は上がる。ギャラに関して
はどっちがいいとは一概には言えない部分があるが、仕事が増えれ
ば儲かるには違いない。お金が欲しいか、知名度が欲しいか、仕事
が欲しいか、そんなの欲しいに決まっている。
エロ本で書けないことがあって、この日記を書きはじめた。名前が
売れれば自由に書ける場ができるんじゃないかと思った。状況は変
わっているんだろうか。仕事は増えるかも、しれない。名前も前よ
りは売れた。セックスに詳しい人として。セックスについてしゃべ
れる人として。他に適役がいないのなら、いくらでもやるよ、こん
なこと。一般誌の人は、脱ぎをやっていず、でもエロに詳しく、そ
して普通っぽい見た目の女にエロを語ってほしい時があるんでしょ
う。やりますよ。エロ、好きだしね。親に見られようがどうしよう
がかまわないしね。結局それで行きつくのはどこなのか。顔出しを
求めるエロ仕事と何か違うのか。女でライターでエロが書ける。そ
れだけの仕事、それ以上はいらない仕事、一般誌でもエロ本でも、
求めるものは同じじゃないのか。女でエロが書けるってだけで、仕
事もらえて良かったね。女に生まれて本当に良かったね。たまたま
好きだったのがエロで良かったね。男だったら今のような仕事の来
かたはしていなかっただろう。
「女」「エロライター」「20代」「普通の外見」というアイコンが
そんなに大事なのか。情報としての文章しかもう雑誌では必要とさ
れてないのか。誰かの書く心ある文章よりも、「女」で「エロライ
ター」の書くあたりさわりのない文章の方が価値があるんだろうか。
この持ち札をあざとく使って立ち回ればいいんだろうか。この持ち
札以外に私の価値は、ないんだろうか。私は、私を、いつになった
らちゃんと吐き出せるのか。売れっ子になること、金持ちになるこ
と、有名になること、それと書きたいことが書けることは、イコー
ルではない。二者択一でもない。どこへ向かえばいいのか。何を目
指せばいいのか。道は見えない。太陽は見える。それに向かって今
は行くしかない。
雨宮まみ
<pinksoda@md.neweb.ne.jp>
DiaryServer Diary/1.106 (DiarySrv::Diary/1.211 ; Compress::Zlib/1.34)
Created: 1997/12/09,
Updated: 2004/01/04